税務トピックス

2012年5月20日 日曜日

相続税無申告で起訴(四日市:光本税理士)

 先日の新聞で、母親から受け取った遺産の相続税2億円を納めなかったとして、相続税法違反の罪に問われた愛知県の納税者の名古屋地裁における有罪判決が出たとの記事を読みました。
 脱税の記事の報道は一般に行われていますが、この判決の注目すべき点は「単純無申告」で起訴され、有罪の判決が出たという点です。

 この事件の特殊性は、「母親の死亡を隠し続け、遺体を自宅に放置し死亡届も出さず」、母親から相続した不動産などの遺産6億6千万円を税務申告しなかったという点です。

 現状での無申告による租税罰則は次のとおりです。
(1)ほ脱犯(不正無申告ほ脱犯)⇒10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金
(2)故意の申告書不提出ほ脱犯⇒5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金
(3)申告書不提出犯(単純無申告)⇒1年以下の懲役又は50万円以下の罰金

 今回適用されたのは(3)の「単純無申告」であり、この罰則はかなり昔からあるのですが、実際に適用されることはまれでした。
 というのも、「単純無申告」というのは、仮装・隠ぺいなどの不正行為がないということ、つまり悪質性が低く刑事事件にはなじまないからです。税務当局や検察庁も、これまでは刑事事件として取り扱わずに、税金の世界で処理を終えるというのがほとんどでした。

 それでは、なぜ今回この事件が起訴の対象となったのか?
 その答えは、昨年8月の税制改正にあるように思います。
 上記の内(2)は昨年8月の税制改正で新設された罰則です。これは、仮装・隠ぺいまでの不正行為はないものの、「故意」に申告書を提出しなかったものを罰するものです。

 (1)と(2)の違いは、仮装・隠ぺいなどの不正行為があったかどうかで区分できるのですが、(2)と(3)の違いはなんでしょうか。
文理上は、不申告が「故意」であったかどうかによるものになりますが、実務上の判断は非常に難しい気がします。
 「故意」の判断材料としては、「申告義務の認識」「脱税金額の認識」等になるかと思われますが、今回の事件が(2)ではなく(3)になったのは「申告義務の認識」はともかく「脱税金額の認識」がなかったということではないでしょうか。

 いずれにしても、(2)の罰則の新設により、これまで脱税事件になりにくかった「不申告犯」のハードルがかなり下がった気がします。
 今後は相続税に限らず、外為証拠金取引(FX取引)、海外株式や海外不動産の売却などで相当の「不申告犯」が出てくるのではないでしょうか。

 

投稿者 光本会計事務所 | 記事URL

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